バスルームで愛したい
「…じゃあ、お願いします」
「任された」
急に真面目な顔になってフレディの背中を見つめる。その顔が面白く感じてフレディは思わず笑った。
「アルフ、気を楽にしてくださいね」
アルフは頷くとボディタオルをゴシゴシとフレディの背中にこすりつける。ちょうどいい力加減だ。相手が女なら物足りなかったのだろう。
背中をこする手が止まったので振り返ると、アルフが満足げにしている。フレディはボディタオルを受け取ると自分で身体を洗い、シャワーで泡を流してバスタブのほうを向いた。
「はいっても、いいですか?」
「もちろん、おまえが入るのを待っていたんだ」
相変わらずご機嫌そうなアルフにいたずらしたくなり、バスタブに足を入れると思い切ってアルフの腿の上に腰を下ろした。
「!?」
「アルフが俺を誘ったんですからね」
フレディがツンとして見せるとアルフは恐る恐る背中から手を回してきた。ヘソの前でアルフの両手が重なる。それを見て心がじんわりと満たされていくのを感じていると、これもまた恐る恐る背中に肌が触れた。
アルフが背中に自分の胸をくっつけてきたのだ。アルフの顎がフレディの肩に落ちる。包まれた感覚が心地よい。
「…アルフ?」
「今日も疲れたな」
「…お疲れさまです」
「でもこうしていると心が溶け出すみたいに気持ちいい」
アルフのトロンとした声が鼓膜にしみていく。ただ二人で肌をくっつけていることがこんなに幸せな恋を、今までフレディは知らなかった。
「俺が、してきた恋愛はなんだったのかなって、アルフに出会って思うようになりました」
フレディの唐突な声にアルフが顎を上げた。フレディの右肩が軽くなる。
「だって、あなたと体験する何もかもがこれまでとは桁違いに幸せすぎる。切ないこともたくさんあった、それもそれで桁違いに切なかった」
フレディは思い出して涙ぐみそうになった。二人ともがいつ死んでもおかしくない環境に毎日身を置く。毎日毎日心配で仕方が無いのだ。この目の前の幸福がいつ消えてしまうのかと、不安でいてもたってもいられなくなるのだった。
「だから、ずっとそばにいてくださいね」
フレディが微笑みながら後ろを振り向くと強く抱きしめられた。アルフはフレディの背中にうなじに顔をうずめたままでこちらに見せてくれない。
「アルフ」
「俺もだ。俺も同じだよ。フレディ」
アルフがようやく顔を上げた。そしてフレディの唇に優しくキスをする。
「愛しているよ、フレディ」
「俺もですよ、アルフ」
こうしてきちんと言葉を交わし合うことは稀かもしれない。二人とも少し照れて、そして二人で笑った。
「もうダメですアルフ。行きましょう。逆上せてしまう」
「いやだ。もう少しいいだろう」
アルフは立ち上がろうとするフレディをぎゅっと抱きしめる。
「ダメです、もし絶対というならこれ以上くっつかないでください」
フレディがその腕をほどこうとするも、元々体格差がある二人だ。アルフの腕はびくともしない。
「なぜだフレディ、またそうやって寂しいことを言う」
アルフは口を尖らせる。全く気付かないのか、鈍い男だ。フレディはむくれながらいった。
「……あんたも男なら、わかるだろう」